中小企業が金融機関から融資を受ける場合は経営者が連帯保証人にならなければならないことが多く、それが大きな負担となってきました。
しかし、金融庁が「個人保証なしの融資」を推進していることもあり、個人保証を外せるケースも増えてきています。
銀行融資の個人保証を外す方法は、以下の4つです。
- 融資をプロパー融資のみに移行する
- 融資担当者とコミュニケーションをとり、外せない理由を聞き出す
- 限度額保証変更で徐々に保証額を下げる
- 複数の銀行を競わせる
融資の個人保証を外すことができれば、より安心して経営に集中することができます。
ここでは、その方法について詳しく解説していきます。
銀行が経営者の個人保証を付ける理由とは
銀行が経営者の個人保証を付ける理由は、大きくわけて3つあります。
ひとつめは、貸倒れリスクに対応するためです。
貸倒れリスクに対応するため
融資に個人保証を付けていると、「会社の借金=経営者個人の借金」となります。
そのため、万が一会社が倒産してしまっても、経営者が借金を返済することになるため、銀行側の貸倒れリスクが少なくなるのです。
個人保証は経営者にとっては大きな負担となるものの、個人保証をつけると審査に通過できる可能性が高くなります。
そのため、中小企業への融資は個人保証をつけることが一般的となっています。
ふたつめは、経営者に危機感をもたせるためです。
経営者に危機感をもたせるため
会社が倒産しても経営者にまったくダメージがない場合は、どうしても経営への執着や真剣度が低くなってしまいます。
その結果、もしも経営がうまくいかなかった場合は、簡単に会社を倒産させてしまうことも考えられ、その場合は融資を行った金融機関に大きな損失が出てしまいます。
特に、授業員数が少ない零細企業の場合は、従業員の生活を守るという責任感がどうしても少なくなってしまうため、経営を簡単にあきらめてしまいがちです。
このようなことから、従業員数が少ない会社の場合、金融機関としては特に個人保証をつけておきたいと考えるようです。
みっつめは、会社と経営者は一体のものであると考える慣習です。
会社と経営者は一体のものであると考える慣習
中小企業・零細企業の場合、会社の融資審査では経営者の返済力も加味して行われることが多くなっており、これは長年にわたる慣習と考えて良いでしょう。
中小企業や零細企業における銀行融資の申し込みでは、経営者の個人保証がほぼ必須となっています。
包括根保証の禁止などで個人保証は変わってきた
経営者の個人保証が必要となっていた銀行融資ですが、その考え方に変化が出てきています。
そのきっかけのひとつが、包括根保証を禁止する内容の民法改正法の施行です。
改正前は、個人保証の保証方法は「包括根保証」といい、金額に際限なくいつでも経営者が連帯債務を負うものとされていました。
しかし法律改正後は、保証方法が「限度額根保証」と「特定保証」に変更されています。
限度額根保証 | 保証の極度額や保証期限を定めた個人保証 |
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特定保証 | 特定の債務ごとの個人保証 |
改正前と改正後の詳しい内容の違いは下記のようになっています。
改正前 | 改正後 |
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根保証契約は口頭約束でも有効 | 口頭約束は無効、書面契約が必要 |
債務者の借入を上限なく保証する契約であっても有効 | 保証金額の上限を定める必要があり、保証人はその範囲内での保証を行う。 |
無期限で保証する契約も有効 | 保証人は契約で定められた5年以内の期間に発生した債務のみ保証(定めがないときは3年以内) |
近年の政府の取り組みでは、「日本の経済活性化のためには新しいビジネスを積極的に生み出すことが必要だ」ということで、ベンチャーに対する支援を積極的に行っています。
しかし、「会社への融資にはかならず個人保証が必要」という状態ではリスクが大きく、なかなか起業家が生まれにくい環境となっています。
このような状況を改善し、起業する人を増やして経済を活性化させようという目的のために、中小企業庁も下記のような「経営者保証に関するガイドライン」を公表しています。
- 法人と個人が明確に分離されている場合は、経営者の個人保証を求めないこと
- 個人保証を行っている場合でも、一定の生活費を残すことや華美でない自宅に住み続けられること等を検討すること
- 保証債務の履行時に返済しきれない金額は、原則として免除すること
このように、経営者個人に多額の負債を負わせない、家族の生活を守る、個人保証に頼らず、事業性を評価することなどを指導しています。
このガイドラインは、新規借入だけではなく、過去の借入れも対象となっています
政府系金融機関では、個人保証がない新規融資が増えてきており、経営者の個人保証に対する見方が変化しつつあると考えて良いでしょう。
経営者の個人保証を外す方法
経営者の個人保証を外す方法はいくつかあり、契約が締結された金融機関との合意があればいつでも外すことができます。
ただ、個人保証を外すということは、その分のリスクを金融機関が引き受けるということを意味します。
会社の収益だけで確実に返済が可能かどうか、財務状況は良好かなど、色々な側面から審査が行われます。
政府系銀行が公表している「個人保証が外せないケース」は以下のようになっており、この2点にあてはまると、個人保証は外せないと考えられます。
- 債務超過であること
- 2年連続、減価償却前の経常利益が赤字であること
また、民間の金融機関もこれに準じるかたちとなっています。
この2点にあてはまっていなければ、個人保証を外せる可能性があります。
その方法について詳しくみていきましょう。
融資をプロパー融資のみへ移行する
現在の融資が保証協会の保証付き融資ならば、まずはそれをプロパー融資のみに移行することを検討しましょう。
審査されるポイントは下記となっています。
- 業績は伸びているか
- 収益が十分にあがっているか
- 今後成長が期待できる市場か
- 返済実績が十分にあるか
これらの審査をクリアしてプロパー融資へ移行できたということは、会社に対する評価は高く、ある一定のレベルに達していることを意味します。
この状態になってはじめて、個人保証を外す交渉ができる素地が整ったといって良いでしょう。
保証協会の保証付き融資を受けている段階では、会社の信用度が低いということになるため、個人保証を外す交渉は難しいといえます。
まずはプロパー融資のみへ移行することを目標にすると良いでしょう。
融資担当と定期的にコミュニケーションをとる
個人保証を外すには、融資担当者と定期的に面談し、密なコミュニケーションを取ることが大切です。
こまめに担当者と話すことで、以下のような様々な情報を聞き出すことができます。
- 未上場企業で個人保証なし融資をしている会社はあるか
- 個人保証を外すための自社基準のようなものはあるか
- 自社が個人保証を外すために足りないものは具体的に何か
金融庁から「個人保証に頼らずに事業の将来性をみて融資すること」という金融行政方針が発表されていることもあり、個人保証を外すことは金融庁の方針に沿ったことでもあります。
良好なコミュニケーションのなかで、個人保証を外してほしいと頼んだり、外すための条件を聞いてみましょう。
個人保証を外せない場合は、金融機関が「会社に未回収リスクがある」と判断しているということです。
どの点がリスクと判断されているのかは金融機関によって違いますので、コミュニケーションの中でそれがわかれば、リスクを減らすための対策を取ることができます。
限度額保証変更で徐々に保証額を下げる
包括根保証を禁止する内容の民法改正法の施行により、個人保証には上限を設けることが定められました。
そして、この保証額は毎年見直しができることとなっているため、下記のような交渉材料をもとに、保証上限額を引き下げてもらう交渉が可能となっています。
- 会社の業績が良好である
- 経常利益が前年度を上回った
- 過去から現在までの返済実績
- 今後1年間の事業計画書を提示して高い評価を得る
保証額を大幅に下げることは難しくても、毎年交渉して徐々に保証額を下げていくことができます。
最終的には、保証額をゼロにして個人保証を外すことにもつながりますので根気強く交渉しましょう。
複数の銀行を競わせる
借り入れがある銀行で個人保証を外すことが難しそうであれば、他の銀行からの融資を検討することもひとつの方法です。
金融庁のガイドラインがあるため、「個人保証なしで借り換えをしたい」と新規融資を申し込めば、場合によっては受け入れられる可能性があります。
そのまま借り換えをしても良いですし、現在借入がある銀行の担当者に「B銀行から個人保証なしの融資ができると言われた」と伝えれば、個人保証を外してくれる可能性もあります。
近年はマイナス金利が続いており、銀行も「融資をして少しでも収益を稼ぎたい」という希望がありますので、複数の銀行を競わせて良い条件を引き出すのもひとつの方法といえます。
まとめ
経営者の個人保証を外すためには、金融機関が「保証を外しても貸倒れの心配がない」と思えるように、会社の経営を安定させ、業績をのばすことが大切です。
金融庁からの指針でも「個人保証なし」が推奨されていますので、金融機関からの評価が高まれば経営者の個人保証を外すことも不可能ではありません。
ただ、債務超過であったり、業績が伸びていない会社の場合は、いくらお願いしても個人保証を外してもらえない場合も多くなっています。
会社の業績が思わしくない状態で個人保証を外したい場合は、ビジネスローンなど、もともと個人保証を必要としない融資に乗り換えることもひとつの方法です。
会社の状態が思わしくない中で金融機関の個人保証を外すことは、それなりにハードルが高くなっています。
ビジネスローンであれば、経営者が保証人にならずにまとまった融資を受けられますので、検討してみると良いでしょう。